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甦る中山岩太 モダニズムの光と影 展

東京都写真美術館で「甦る中山岩太 モダニズムの光と影」 展を観てきた。
Top_nakayama

中山岩太は1930年代にモダンな作風で知られた神戸在住の写真家で、写真雑誌で時々取り上げられる程度であまり知られていないかもしれない。
昔の著名な写真家として写真雑誌で作品が取り上げられるのは木村伊兵衛と土門拳ばかりだが、ほかにも傑作を残した戦前の写真家は多くいる。雑誌がこの二人しか取り上げないと「こういう作品(だけ)が名作なんだ」と、読者である(若い)アマチュアフォトグラファーに偏った写真観を植えつけてしまうかもしれず、ちょっと問題だと思う。もっとも、この二人が得意にしていたスナップ写真も、それ以前の写真館で撮影していた肖像写真と比較され「お遊び」と思われていた時代もあったのだが。
自分が中山岩太をはじめて知ったのは、現在ベネッセコーポレーションになっている福武書店という出版社(進研ゼミをやっている会社といった方がわかりやすいかも)が80年代に出していた「PHOTO JAPON(フォト・ジャポン)」の特集記事でだった。「PHOTO JAPON」はかなり特徴のある面白い写真雑誌だったので、別の記事で詳しく紹介したいと思う。1920~30年代のモダニズム的な作風の写真を「新興写真」と呼ぶというのを知ったのもこの雑誌が最初だった。それ以降も時々雑誌で作品を見かけることはあったが、展示会でプリントを見るのは今回が初めてだ。

これまで雑誌で取り上げられてきた作品は、日本に帰国してから神戸で発表された1920~40年代のものがほとんどだったが、今回の展示ではヨーロッパ留学~ニューヨーク在住時代の作品や戦後の1950年代の作品も網羅されている。また、残されていた乾板から現在の印画紙にプリントしたものも展示されている。1930年代以降の作品で特徴的なのは、多重撮影やプリント時のネガの多重露光で盛んに画像合成を行っていることだ。単純にコラージュするだけならプリントを切り貼りして複写してもよいのだが、中山は多重撮影と多重露光にこだわっていたようで、それがプリントの微妙な奥行き感やエッジの自然な描写として表現されている。
現在もコマーシャルフォト分野で合成などの画像処理は普通に行われている(中山も有名な「福助足袋」の広告写真がコンテストで入選し、営業的には広告用の写真の撮影を多く手がけたらしい)が、中山は自分の作品と依頼で撮るものとは一線を引いていたようだ。
以前に紹介した名取洋之助が日本のフォトジャーナリズムの草分けだったように、中山岩太はコマーシャル・フォトグラファーの草分けだった。彼らが活躍した1920年代というモダニズムの時代は、近代工業が発達してカメラや感光材料(フィルム、乾板)などが大量生産された結果、写真館以外で撮影する新しいタイプの写真家や膨大なアマチュアフォトグラファーを生み出していた。
作品のほとんどは保存のためにプラチナ・プリント印画紙にプリントされている。印画紙の画像は粒子の集合だと理屈ではわかっているが、なだらかでうすく墨を引いたようなグラデーションや繊細な滲みや暈(ぼ)けはまったく目に心地よい。

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